150721真珠の良し悪しを見分ける鑑定士の育て方について、こんな話があります。
一定期間、来る日も来る日も最高品質の真珠だけを見せます。そうして、ある日、劣ったものをこっそり混ぜておきます。するとたちまち見破ることができるそうです。
たぶん、そこに「最高級」だけが持つ特別な力があるのでしょう。

以前東京で、「こどもの日スペシャルコンサート」という演奏会が開かれました。曲目は、R・シュトラウスの交響詩から始まって、ヴェルディのオペラ、チャイコフスキーのシンフォニーと続きます。
演奏は、小澤征爾(日本を代表する国際的音楽家)指揮のボストン交響楽団。この異色のコンサート、観客はほとんど子どもたちで、しかも、曲によっては高校生が演奏者として楽団に加わります。

いわゆる「子ども向け」の曲は一つもありません。しかし、プログラムは周到に練り上げられていました。選ばれた作曲家は、古典派のベートーヴェンから20世紀を代表するガーシュインまで。また、ドイツ、イタリア、フランス、ロシア、アメリカと、クラシック音楽の歴史と拡がりを体験することができました。

さらに、日本の太鼓やジャズピアノとの共演で、それぞれの楽器や人の声の多様な魅力を存分に味わえる仕掛けにもなっていました。入場料は3,000円。このコンサートは、子どもたちに生の音楽に触れてほしい、と願う小澤さんの熱意で実現しました。
子どもたちは、一人前の聴衆として、最大限の敬意が払われました。

演奏会本番、オーディションで選ばれた高校生のブラスアンサンブルが舞台に立ちました。前日のリハーサルで、小澤さんは繰り返し、やり直しを求めたといいます。「世界のオザワ」にダメを出されて、彼らはどんなに誇らしかったことでしょう。演奏者として一人前に扱われたのですから。

作曲者の名前も、難しい曲名も、皆すぐに忘れたかもしれません。けれど、ホールいっぱいの音楽を浴びて背筋がぞくっとした感覚は、紛れもない自分のものです。静かな光を放つ真珠となって、今でも胸に残っているに違いありません。

普段の生活と全く違う夏休みは、いろんなジャンルの「最高級」に出会えるチャンスがたくさんあります。その中から、一生の宝となる真珠が見つかるかもしれませんよ。
暑くて辛い季節ですが、何事にも全力で取り組んで、自分自身も史上最高の夏にしよう。