中学1年生の歴史の授業で最初に出会う「世界四大文明」の中の1つに、現在のイラク、シリア、トルコにまたがって発展した「メソポタミア文明」があります。
私たちは普段「1時間=60分」のように60を1単位とする「60進法」を用いていますが、これはメソポタミア文明で発明されたものです。

このメソポタミア文明に伝わる神話の中に、『ギルガメシュ神話』というものがあります(ギルガメシュというのは古代メソポタミアの王の名前です。)。
今回は皆さんに『ギルガメシュ神話』の中の一部を紹介します。

ギルガメシュが王に即位して最初に行ったことは、“森の怪物”フンババとの対決です。
ただ、「怪物」というのはあくまでギルガメシュ側の見方であり、本来のフンババは樹齢数千年を誇る杉が繁い茂る森林を長年守り続けてきた“森の王”でした。
ギルガメシュとフンババの闘いの最後の様子が次のように記されています。

ギルガメシュは手に斧を取り一本の杉を切り倒すと、…(中略)…森の王フンババが叫ぶ。
「いったいだれがやって来たのだ!いったいだれが私の山にはえた杉の木を切り倒したのだ!」
フンババの眼から滝のような涙がこぼれ落ちた。
ギルガメシュは天の神シャマシュに祈った。シャマシュはギルガメシュの祈りを聞きとどけ、大いなる風をフンババに送った。
フンババは前にも後ろにも進むことはできなかった。
フンババはついにギルガメシュにこう言った。
「私はここを去ろう。ギルガメシュよ、わが主となれ。私はそなたの家来になろう。私が育てた杉を切り倒し家を建ててはどうか。」
ギルガメシュは迷った。
どこからか声がした。
「フンババを殺せ。生かしてはならぬ。」
その声は友のエンキドゥだった。
ギルガメシュはフンババの首筋に斧を振り下ろした。
次にエンキドゥが、二度斧を向けた。
杉の大樹の悲鳴が二度聞こえた。
こうして森の王フンババは打ち倒された。
辺りを静寂が支配した。
※出典 矢島文夫訳「ギルガメシュ叙事詩」(ちくま文庫 1998年刊)

歴史のプロセスの中で人間は大自然に立ち向かい、未開の山野を切り拓き、都市を建設してきました。
そのおかげで、今、私たちは豊かな暮らしを送ることができます。
しかし、地球の視点から見れば、文明の始まりは破壊の始まりでしかなかったのでは?
フンババを殺す必要はあったのか??
人間ってそもそも何者???
そんなことを考え出すと、少し寂しい気持ちにもなってきます。

世界中で戦争、自然災害、感染症の拡大が絶えません。
私は最近、このまま行くと地球はなくなるのではないかと、本気で考えるようになりました。
きっと、私たちの身の回りにはフンババのようなかけがえのない存在がまだまだたくさんあるはずです。
そうしたものに一つでも多く気づき、大切にしていかなければなりません。
そのためにも、地球上で世界が抱えている課題を皆さんと一緒に学び、自分にでもできる具体的なアクションを起こしていきたいと思います。