151109何年か前のことです。先生は一人の女の子を担当しました。
中3の生徒です。その子は、本当に勉強が嫌いで、嫌いで仕方なくて、数学も英語も社会も理科も唯一自信のあった国語もほとんど勉強してくれませんでした。
理由は、私は勉強が出来ないからやっても意味ないから。

彼女はA高校を志望校にして授業に来ていましたが、いつも授業の半分は愚痴でした。「こんなん私解けへんし」「分数あかんねん、出来ひん」「いや、もう無理やわ」そんなことを言いつつも問題を解いていきます。
ただ、そんな気持ちではやはり成績は伸びないですよね。2学期の終わりに志望校は諦めて、B高校に下げました。その時、二人で話し合って、公立高校にこだわるなら下げるしかないとなったのです。
A高校にいけると理由もなく思っていたのかもしれません。とても落ち込んでいました。本当に残念だとは思いますが、勉強していなかった事実はひっくり返りません。私は、今のままなら合格は出来ないから絶対にA高校受けられない、とも言ったように思います。

その辺りからですかね、彼女が少しだけ変わりました。愚痴や文句が減りました。宿題をちゃんと出されたものは全部やってきました。わからない問題は私や他の先生に聞く姿も見られました。やる気になったかどうかはわかりませんでした。
なにせ12月の講習会、1月私立受験とありましたから、勉強をしていて当たり前という空気だったので、その雰囲気の中で自分もちょっとやらないといけないと思っているだけかもしれない、とも見えたからです。

そんな彼女は、とんでもない行動に出ました。忘れもしません、2月の志願変更の初日です。
その日の授業のときに彼女が、スキップせんばかりに上機嫌で教室にやってきました。そして、満面の笑みで一言。
「先生!私なぁ、A高校受けるわ!」
そこにいた私を含め先生たち全員が驚きました。そして誰もが脳裏をよぎりました。「絶対落ちる」と。ただ、彼女は前向きでした。
「やっぱりA高校受けたい。合格できるかわからんけど、受けときたい。それで落ちても後悔せん」
彼女の覚悟は出来ていました。とても悩んですごく考えて出した結論です。彼女の目の色が違いました。

そこから彼女の快進撃?が始まりました。公立入試まであと3週間。入試用の分厚い問題冊子を2週間で解きました。間違いだらけです。直しもします。残り1週間は過去問題をひたすら解きました。一にも二にも足りないのは基礎学力でしたから、とにかく基本の問題を反復練習です。今までにないくらいに勉強していました。高校合格したいという気持ちの表れだと私は感じました。

試験当日、自信を持って受けておいで、と送り出しました。ただ、彼女には言いませんでしたが、当時の彼女の実力では合格には届いていませんでした。奇跡が起きても合格は出来ないのです。かわいそうだと思いますか?それでも彼女はA高校を受けたことは一切後悔していませんでした。帰ってきて「頑張れた!A高校で受験できてよかった!」とやりきった顔で私に報告してくれました。

結果は、いわずもがな…………と思うでしょ?
彼女は、なんと合格したのです。合格できたのです!
雨の降る中、合格発表の掲示板には彼女の受験番号がしっかり書かれていました。
何が起きたのかはじめはわかりませんでした。でも彼女が泣いているのを見て、あぁ合格したんだなと実感しました。
もっと早くしていれば、こんなことにはならなかったかもしれません。もっと早く意識を変えていれば、他の高校に合格できたかもしれません。

ただ、あの時、志望校を変えて出願して、覚悟を決めたとき、彼女は初めて本気になったんだと思います。人間の本気はすさまじい威力になると私は知りました。合格できるかどうかわからない状態で、頑張るのは怖いことだと思います。だけど、彼女はやりきりました。
理由は、後悔したくないから。

たったそれだけでしたが、十分な動機です。「出来ひん」「もう無理」こういう言葉は一切出てこなくなりました。合格できたのは、本当に奇跡と言っていいと思います。でも、たとえ不合格でも彼女は、後悔はしなかったと思います。悔しくて泣いたかも知れませんが、やり切った顔をしてくれたと思います。
だから、皆さんも後悔だけはしないでください。やりたいことや、やろうと思うことがあったら、覚悟を決めて、本気で取り組んでください。今回は受験の話でしたが、受験以外でもそうです。そうすることで、人は大きく成長できるし、その力は周囲の人も変えていきます。

そう、運ですらこちらに引き寄せるんですよ。受験当日、彼女の受けた高校で一人欠席が出ました。
つまり、その子が休んでいなかったら、彼女は不合格だったかもしれないのです。運良すぎ、と思いましたが、それは彼女が合格したいという執念で引き寄せたのかもしれないなぁと今でも私は思います。