191118筒井康隆さんの『残像に口紅を』という小説を知っていますか?
小説は数多あれど、これほど斬新かつ挑戦的な小説を先生は知りません。

みなさんが小説を書くならばどんなことがきっかけになるでしょうか?
・ある感動をたくさんの人に共有したい
・人を元気に幸せにしたい
・何らかのメッセージ/警鐘を世に送りたい
など、おそらくは発信する内容を吟味するでしょう。
この小説に上記のような直接的なメッセージはありません。

この小説は筒井康隆さんという一人の小説家と『小説』=『表現そのもの』との戦いです。

驚くなかれ、
この小説では『1章ごとに五十音中の音が1字以上ずつ消えていく』のです。
この唯一にして絶対的なルールのもと、物語は進んでいきます。
各章のタイトルは『世界から“て”が消えた』のようなかたちであり。
それ以降その文字は小説内に一切登場しません。
そんなことが可能なのか?と思うでしょう。
内容は意外なほどしっかりしています。
完成のためにどれほどの時間と試行錯誤があったのか想像も出来ませんね。

さて、もしみなさんが同じ内容に挑戦するなら“どの文字”を最初に消しますか?
先生は書き物が苦手なので、正直“ん”とか“ろ”とか使用頻度の低そうなものから消していくと思います。

筒井康隆さんが一番最初に消した文字は、なんと“あ”です。

これから前人未到の挑戦に駆け出す第一歩目が、最も危険な一歩。
踏み込む勇気がカッコいい!と思うのと同時に、
“1文字目にもならぬ1文字目”で、
「この先どうなるんだ!?」と読者をトリコに。
自分への挑戦と、作家としての本懐を両立する姿勢は正にプロだと感じますね。

みなさんも日々、小さな挑戦、大きな挑戦と向き合っていると思いますが、
“踏み込む1歩目は最も困難な道であれ”と全力のエールを送り続けることが先生の挑戦です。