東日本が巨大地震に襲われてから、約一ヶ月半が過ぎました。時は巡(めぐ)って、風薫る爽(さわ)やかな季節となりました。例年なら、人々の身も心も爽やかになる季節です。

 しかし、今年ばかりは、どことなく重いものがあるようです。日本全体が重い空気に包まれているように感じます。
 『復興( ふっこう) の種』という掛け声のもとに、多くのティエラ生から「義援金」や「がんばりポイント」の寄贈がありました。今も続いています。また、「激励メッセージや作文」の呼びかけにも気持ちよく協力してくれました。
 日本社会に「自粛」という空気も広がっています。確かに自粛も不可欠です。
 けれども、まだ他にできることはないかと、先生は考えました。それは、長期的展望にたった『復興』ということです。つまり、君たち一人一人が、自立したたくましい大人(社会人)になっていくということです。それは、『今を一生懸命生きる』ということから始まると思います。
 この春の講習会で、小六国語の確認テストから下記の問題文に出逢(であ)いました。少々長くなりますが、しっかり読んでみてください。

 「植物は、どこでも好きなところに勝手に生えているとみなさんは思うかもしれませんが、実はきびしい気候条件、土壌( どじょう) 条件、生物的な条件にたえて芽を出します。芽を出したとたんに次の社会的な規制に直面します。まわりの植物と競争し、おたがい我慢( がまん) しながら、共生していくのです。生物社会は競争を通してのみ発展します。どうかすべての競争を拒否( きょひ) しないでいただきたい。
 きびしい競争相手は、反対側からみるとしばしば共存(きょうぞん)者でもあるのです。そして我慢のできない生き物はこの地球上では一時も生きていけませ ん。生物社会の共生とは仲良しクラブではありません。少々苦手ないやな相手であっても、少し我慢しながらともに生きていく。競争、我慢、共生のきびしい社 会的なおきてと、置かれた環境(かんきょう) 要因(よういん) に規定されながら、それぞれの植物は生きているのです。」
——-宮脇 昭 著「森は地球のたからもの3 森の未来」より

 宮脇さんは横浜国立大の名誉教授であり、環境界のノーベル賞とも言われている『ブループラネット賞』を受賞された方でもあります。その言葉には説得力があると思いませんか。
 『競争、我慢、共存・共生のきびしい社会的おきて』の中で生きているのは、私たち、生物である人間も同じです。
 子ども時代というのは、より良き大人(社会人)になるための訓練の時です。ある日、突然大人になる訳ではありません。長い年月の、その一日一日のすべて が関連していると言っても過言ではありません。ただ、日常の暮らしの中では、ついつい忘れてしまうことでもあるのです。『非日常世界』の中でこそ、忘れて しまっていたことに気付き、その重要性を再認識できるのです。私たちは、だからこそ、時にはその『非日常世界』に身を置く必要があるのです。

 ティエラが呼びかける『合宿教育』とは、まさにその『非日常世界』の舞台ではないでしょうか。
 「困難にたじろがない ひとりで勉強できる子に」という教育理念を根っこに、感動・感激、夢中、おもしろさ、楽しさといったすべてを含んだドラマの主人公となって、『競争、我慢、共存・共生』を学んでいくのです。
 班で競い、個人で競いながら、「一人はみんなのために みんなは一人のために」とは何なのかということを学んでいってほしいのです。
 人生における貴重な財産となる『思い出』とともに、必ずや君たちの未来に活かされていくものと信じて疑いません。

 「こんなに楽しいもんやったら、もっと早くから参加しとったらよかった。来年は、もう来られへんわ。」
と言った、二年前の小学練成合宿に参加した小六の女の子の声を、先生は今も忘れません。