春を知らせる虫の1つに「チョウ」がいます。

チョウは人類よりも、はるか昔から生息していたのですが、『万葉集』にチョウが読まれた歌が一首もないことは有名です。昔はチョウとガの区別がなく気味の悪いものとして見られていたことや、ひらひらと飛ぶチョウは死者の魂を運ぶとされ、不吉だと忌み嫌われていたためです。

しかし、ひらひらと舞う優美な飛び方こそ、チョウが天敵である鳥の攻撃から身を守るための逃避行動なのです。

アゲハチョウと鳥の戦いは生まれたときから始まっています。
卵から孵ったばかりの幼虫は、鳥の糞に似て黒と白の混じった色をしています。さすがの鳥も自分の糞は食べないためです。やがて成長し、体が大きくなると、植物の茎や葉と同じ緑色の保護色に姿を変え、大きな目玉模様ができてきます。よく田畑の鳥よけに大きな目玉模様の風船が用いられますが、鳥は大きな目玉模様を嫌う性質があるためです。

他にも、幼虫の体に描かれた白い模様には体全体の大きさをわかりにくくさせたり、鳥が嫌がるにおいを放つ黄色い臭角と呼ばれる角を出して威嚇したりもします。
さなぎも、ごつごつした木の幹では茶色いさなぎになり、緑色の細くすべすべした茎のような場所では緑色のさなぎになります。

アゲハチョウが鳥から身を守り、子孫を残し、種を守ろうとする、これらの生き残りのための遺伝情報はアップデイトを繰り返しながらDNAに書き込まれていったに違いありません。自らが置かれた環境で何とかして生き抜こうとするたくましさを感じます。

4月になるとみなさんも新しい環境での生活がスタートします。自分が思い描いた環境とは異なっているかも知れません。しかし、アゲハチョウのように置かれた環境で賢く生き抜くために、自分を変化させることで環境に適応していくことが大切です。変化は相手に求めるのではなく、自分が行うのです。

ところで、平安時代まで嫌われていたチョウは、平家が家紋にアゲハチョウを用いてからは、武家の家紋として好んで用いられるようになりました。アゲハチョウの優雅で華麗に舞う姿の裏に、どのように時代が動いても、我が御家はしぶとく生きのびて欲しいという思いが隠されていたのかもしれません。